第2回シニアメンバー懇親会

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2020年1月22日水曜日

6つの視点から読み解く、合成生物学はこうして地球を“回復”させる

6つの視点から読み解く、合成生物学はこうして地球を“回復”させる!:MEND THE EARTH#2
支援という名の破壊? どんなに良いものでも過ぎると破綻する。相互依存であることを

環境問題をはじめとする人間が残した「爪痕」がそこかしこに拡がっている現在、急速な発展を遂げる「合成生物学」は、ダメージを負った地球を回復させる新たな手立てとなりつつある。操作された微生物に仕事を担わせることで課題解決に応用されている合成生物学の事例を、“地球のため”の6つの視点から紹介する。(雑誌『WIRED』日本版VOL.35より転載)
TEXT BY SANAE AKIYAMA
SPECIAL THANKS TO HIROSHI M.SASAKI
MIRAGEC/GETTY IMAGES
マイクロプラスティック、公害物質、地球温暖化ガス──。いまや人間が地球に残した「爪痕」はそこかしこに拡がっている。人間の活動がもたらした環境破壊、そして崩れつつある生態系をテクノロジーは打開することができるのだろうか?
現在、急速な発展を遂げる「合成生物学」は、創薬をはじめとする人間の進歩のためだけでなく、ダメージを負った地球を回復させる新たな手立てとなりつつある。すべての生命を、遺伝子の檻から解き放つ合成生物学。これを環境問題解決に応用する際の手法として主に考えられるのが、微生物の特性を実用的な目的で工学的に操作すること」だ。
人の手によって操作された微生物が“仕事”をするのに必要となるエネルギー源は、再生可能な栄養分。つまり合成生物学の環境問題への応用は、クリーンでサステイナブルな解決法だといえるのだ。いま世界中で進んでいる、合成生物学の応用事例を「農業改善」、「食糧問題」、「環境汚染」、「生物多様性」、「エネルギー」、「マテリアル」の6つの視点から紹介しよう。

FRANCESCO CARTA FOTOGRAFO/GETTY IMAGES AGRICULTURE
農業改善のカギは「根」にあり?
現在、世界の食料供給の約半分は「合成窒素肥料」に依存している。窒素肥料は温室効果ガスの約5%を占める亜酸化窒素に分解され、大気に放出されたり、海に流れ込み、世界の海域に500カ所以上ある生物の生息不可能な「デッドゾーン」を拡大させたりしている。
「Pivot Bio」は、穀物の根と共生して栄養を送り込む微生物の能力を遺伝子改変で強化し、空気中の窒素を肥料として吸収させることに成功。またソーク研究所は、植物の根を地中の奥深くまで成長させる遺伝子の特定・強化により、二酸化炭素を長期間地中に貯蔵させ、豊かな土壌の実現を可能にした。これらの技術は地球温暖化対策や、人口増加に対応する食料や燃料の供給につながるだろう。

MIRAGEC/GETTY IMAGES FOOD
ラボ生まれの「タンパク質」がぼくらを救う!
「Solar Foods」は、遺伝子改変された微生物で“自然な”タンパク質「ソレイン」を合成している。牛肉タンパク質1kgのために15,500ℓの水が必要であるのに対し、ソレインなら10ℓの水で済む。生成に必要となるのは、主に空気中の二酸化炭素、水、そして電気だ。発酵に似たプロセスで微生物にこのタンパク質を合成させ、最後にその微生物を熱処理すれば全粒粉の見た目と味がするソレインの出来上がりだ。
「Impossible Foods」は、肉の味をつくるために鉄含有分子「ヘム」を生成する植物の遺伝子を微生物に挿入し、合成ヘムの大量複製に成功。これを植物性のタンパク質に混ぜ合わせ、動物の肉に似せた合成肉がすでに販売されている。
関連記事:牛肉そっくりの「合成肉」でハンバーガーができるまで──奇妙な「科学」の裏側と、安全性を巡る攻防

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ENVIRONMENT / POLLUTION
標的となる環境汚染物質を特定せよ

健康リスクが懸念されている有機フッ素化合物の一種「パーフルオロアルキル化合物」および「ポリフルオロアルキル化合物(PFAS)」は、1950年代からさまざまな製品に使用されてきた。「Puraffinity」は、微生物にセルロース膜を生成させ、その膜に標的となる汚染物質に結合する分子受容体を付着させることで、PFASや農薬、医薬品などに含まれる有毒物質を飲料水や排水から除去することを可能にした。
これまで除去が難しかった特定のホルモンや重金属なども、フィルターのカスタマイズで対応可能になる。汚染物質除去を担う微生物のエンジニアリング「バイオレメディエーション」も、多数の研究機関で実験が進んでいる。

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BIOLOGICAL DIVERSITY
もはや「絶滅」は過去のもの?
気候変動による生息地の縮小や外来種による侵略、伝染病などで「生物の多様性」が脅かされつつある昨今。「Revive & Restore」が提案するのは、絶滅種や絶滅危機生物の遺伝子保全のための遺伝子編集技術の使用だ。
例えば、伝染病で絶滅が危惧されているクロアシイタチへ病原菌の耐性をもつ飼育下繁殖フェレットの遺伝子を挿入したり、海水温上昇による白化や汚染に強いサンゴの遺伝子を組み込んでサンゴ礁の多様性を保全したり、生態系に打撃を与える外来種のネズミを遺伝子ドライヴ技術で駆除することなどが考えられている。絶滅したケナガマンモスやリョコウバトの遺伝子を現存する近縁種に組み込んで復活させるなど、応用も期待されている。

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ENERGY
化石燃料に代わる新たな「バイオ燃料」
エネルギーのための化石燃料使用が二酸化炭素排出量の大部分を占めるなか、「LanzaTech」は嫌気性微生物が産業廃棄ガスからエタノールを自然につくり出すことを発見した。このエタノールの生成効率を遺伝子改変で向上させた結果、産業廃棄ガスから有用なバイオ燃料や化学物質の製造が可能になった。クリーンで安価に生産できるバイオ燃料については、さまざまな研究機関が模索している最中だ。
海中に生息する「ハロモナス菌」の遺伝子改変によって海水と糖から次世代ジェット燃料を合成する実験や、微細藻類の代謝経路を変えて光合成を効率化させることでバイオ燃料の生産性や二酸化炭素吸収率を向上させるといった実験が行なわれている。

ENRIQUE RAMOS LÓPEZ/EYEEM/GETTY IMAGES
MATERIAL
「資材」をもっとクリーンに!
「bioMASON」は、微生物を利用して建設資材の「れんが」を“成長”させている。この微生物は、水中のカルシウムイオンから歯の成分に似た炭酸カルシウムを生成し、砂粒子を接合させて、れんがをつくり出す。暗闇で光るれんがや公害物質を吸収するれんがの生成も可能だ。焼き固める必要はなく、室内温度で3~5日放置すれば自然に固まる。
また、「Pili」はあらゆる色素に調整できるタンパク質(酵素)を合成し、微生物の遺伝子に組み込むことに成功。微生物の発酵原理を利用することで、再生利用可能な砂糖などの栄養源から、質がよく汚染物質を出さない染料や顔料を生成している。染色による水質汚染が問題視されるファッション産業での活用に期待だ。

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