第2回シニアメンバー懇親会

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2020年1月3日金曜日

世界が注目する歴史学者の「文明を見る眼」

世界が注目する歴史学者の「文明を見る眼」


「人と人とのつながり=ネットワーク」こそが世界を動かす大きな原動力だと指摘する。

アイデアやイノベーションを広げるカギ
あなたが勤める会社にも、「あの人に相談すれば、うまく根回ししてくれるよ」と、誰からも頼られる人物がいるのではないだろうか? 部署の垣根を越えてさまざまな人物につながっていて、社内のみならず、社外でも顔が広くて、社内のゴシップから業界の最新情報まで、やたらと詳しい「キーパーソン」である。

『スクエア・アンド・タワー』(上: ネットワークが創り変えた世界、下:権力と革命 500年の興亡史)(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

 アイデアやイノベーションが広まる際には、こうしたキーパーソン(ノード)が重要な役割を果たし、ネットワークの内部にどれほど多くの、どのようなノードが存在するのかが、情報伝達のカギとなる。
また、仕事を探している人は、近しい間柄の親友よりも、それほど親しくない知人に助けてもらえる場合が多いという。このような結びつき(弱い紐帯)は、それがなければまったく結びつくことがなさそうな集団同士の架け橋となり、アイデアを広める役割を果たす。
では、人類の歴史において、どのようなノードが、どのようなネットワークを形成し、世界を動かしてきたのだろうか?
言うまでもなく、人類は社会的な生き物だ。ヒトは無比の神経ネットワークをもち、生まれながらにネットワークを形成するようにできている。人類がほかのあらゆる動物と一線を画するのは、コミュニケーションを行い、集団で行動し、ネットワークを形成する能力にある。
そして本書によれば、その能力によって文明を築いた古代の人々は、強力な階層制のもとに暮らしていたという。つらい仕事に従事させられた古代の庶民は、一部の特権的なエリート層によって従属させられ、権力に楯突くことは禁じられ、横のつながりをもつことは不可能だった。
このような階層制が人類の歴史と同じくらい古いのは、それによって権力の行使が効率的になるからだった。イノベーションはまれだが強固な社会秩序が持続するこのような世界に、人類は何世紀にもわたって生きていた。

ネットワークが世界を大きく変え始めた時代
こういった状況が大きく変化したのが、15世紀から18世紀にかけてである。この間、ヨーロッパは大航海時代を迎え、新しい交易ルートのネットワークが生み出された。当時の探検家たちは、造船や航海、地理、戦争の知識を分かち合い、1つの社会的ネットワークを形成していたのである。
彼らスペインやポルトガル出身の冒険者たちは、優れたテクノロジー(および自分たちが持ち込んだ病原菌)によって新大陸の支配者を権力の座から引きずり下ろし、アジアやアフリカの帝国や王国を弱体化させ、近代前期の世界を変容させることとなる。
また、印刷術と宗教改革も、ネットワークに大きな力を与えた。グーテンベルクが発明した印刷機によって、ルターのメッセージは瞬く間に広がり、ローマカトリック教会という権威に対する反抗の波が解き放たれたのである。
印刷術によって勢いを得たネットワークは、やがて科学革命と啓蒙運動をもたらした。産業革命においても、新しい技術を広めるだけでなく、知力や資本をプールするうえで、ネットワークは重要な役割を果たした。
18世紀後期の大きな政治革命では、ネットワークがその推進力となった。アメリカ独立革命で主要な役割を果たしたのは、フリーメイソンのネットワークだったし、フランス革命は王家の階層制に対するパリの群衆のネットワークによる勝利ともいえよう。
ただし、階層制なき世界は、無秩序に陥りがちで、フランス革命後の混乱した社会を安定させたのは、結局のところナポレオンという徹底的な管理主義者だった。
そして、世界は再び階層制、すなわちオーストリア、イギリス、フランス、プロイセン、ロシアの「5強国による5大国体制」によって支配されることになる。
自らを刷新することができない階層制をネットワークが崩壊させるが、ネットワークだけでは社会は混乱と無秩序に陥り、再び階層制が台頭するというパターンが、近代の歴史には見て取れるのだ。
非公式なネットワークの力と危険性
20世紀後半は、再びネットワークが階層制を凌駕した時代と見ることができる。第2次世界大戦のような総力戦では有効だった階層構造の制度は、複雑化する消費社会にはまったく不向きだった。
ソヴィエト連邦で実施された階層制による計画経済は失敗し、反体制の革命ネットワークの勃興によって、1991年にソ連は崩壊する。
官僚制を痛烈に批判していたキッシンジャーは、政府中枢の外へあらゆる方向に水平に広がるネットワークを構築し、大きな影響力を発揮したし、階層制の国家同士が創設した機関ではない、非公式のネットワークである世界経済フォーラム(ダヴォス会議)は、共産主義者のネットワークを、資本主義者の国際組織に統合する場となった。
インターネットを生み出したのは、決して単一の機関ではなかったし、ワールド・ワイド・ウェブもまた、非集中型のネットワークによるイノベーションの産物だった。
近代の印刷術の発明や、科学革命、産業革命と同様に、20世紀におけるテクノロジーの発達が、ネットワークの成長を大きく促したのである。
しかし、歴史が教えるように、ネットワークは楽園を約束するものではない。サイバースペースはその脆弱性ゆえにマルウェアやウイルスなどによるさまざまな攻撃にさらされ、ネットワークはいいアイデアだけでなく、悪いアイデアも生み出して広めることができるので、フェイクニュースを拡散し、ポピュリズムや移民排斥主義を広めることもある。
また、ネットワークと市場が手を組むと、ごく一部のネットワーク支配者に収益の大半が流れて、不平等化が急速に進む。
人類にとって、ネットワークと階層制のどちらが優れているというわけではない。ネットワークだけに頼れば、世界は混乱と無秩序に陥るだろうし、階層制に依存すれば、イノベーションは訪れず、硬直した全体主義的な管理社会となりかねない。
ファーガソンは本書の構想を、イタリアはシエナのカンポ広場とマンジャの塔から得たという。
そして彼は、カリフォルニア州にあるフェイスブックやアップル、グーグルといった企業の、広場のような水平構造の社屋と、ニューヨークの5番街にある58階建ての垂直にそびえ立つトランプタワーを対比させることで本文を結んでいる。
気候変動やテロ、サイバー攻撃といった現代のグローバルな問題を解決できるのは、ネットワークだろうか、それとも階層制だろうか? はたまた、両者の最適な組み合わせなのだろうか?

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